• TOP
  • PROJECT
  • DEN-EN
  • 地域に暮らしている人が地域をつくる! 〜あおばセカンドキャリアフォーラムをレポート!〜
PROJECT / DEN-EN

地域に暮らしている人が地域をつくる! 〜あおばセカンドキャリアフォーラムをレポート!〜

posted:

横浜市の北部に位置し、町田市や川崎市に隣接する青葉区。ここ10年間で65歳以上の人口が13.2%から20.5%まであがり、少子高齢化が進んでいます。
この流れは今後さらに加速すると予測されるなか、区民が自らの豊富な経験や能力を生かすことで未来に向けた地域づくりに参画してもらうための事業が始まりました。
 
そのオープニングイベントとなったのが、7月8日(土)、慶應義塾大学名誉教授の金子郁容(かねこいくよう)さんと、NPO法人ぐるーぷ藤理事長の鷲尾公子(わしおきみこ)さんをゲストに迎えて青葉公会堂で開催された「あおばセカンドキャリアフォーラム」です。基調講演とパネルディスカッションを通して、地域でソーシャルイノベーションを起こすヒントを来場者の皆さんと共有しました。
 

まちの活動のきっかけづくりに

 

暑い日にもかかわらず、青葉公会堂のホールには200人近い方々が集まりました。フォーラムを和やかに進行するのは、フリーキャスターの船本由佳さんです。最初に、青葉区長の小池恭一さんから本フォーラム開催の経緯が紹介されました。
 

青葉の地域には、さまざまな経験を持った方や高い能力を持った方がたくさんいらっしゃると、常々感じています。一方で、そうした方々が定年退職後や子育てがひと段落した後もそのまま在宅している現実もたくさん目にしてきました。『ちょっとした手伝いならできる』と考えている方が多いことは区民意識調査からも分かっていますが、皆さんとお話する中で『情報がない』『参加方法がわからない』『自信がない』など、まちで活動するきっかけをつかめない方が多いことも見えてきました。今日のフォーラムがきっかけになって、ちょっと手伝ってみようかな、やってみようかな、と思っていただければ幸いです


 
このフォーラムの副題は「地域とつながろう!新たな自分が輝きだす!」です。
自分のできることで、まちと関わり、まちをもっと良くしてもらい、そして自らも経験やスキルを生かして地域で輝いてもらえれば。 ─ 本フォーラムにはこうした思いが込められています。
 

地元のボランティア活動で思いがけない学び

 
慶応義塾大学名誉教授の金子郁容さんは、情報組織論やネットワーク論、ソーシャルイノベーションが専門です。その金子さんの講演での最初のトピックは、意外にも現在お住まいの横浜市鶴見区で行なっているボランティア活動についてでした。
 



慶應義塾大学名誉教授 金子郁容さん

慶應義塾大学工学部卒、スタンフォード大学にてPh.D.を取得。ウィスコンシン大学准教授などを経て1994年から
慶應義塾大学教授、2016年度から同大学名誉教授。専門は情報組織論・ネットワーク論・コミュニティ論。内閣官房「次世
代医療ICT基盤協議会」、厚生労働省「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会(座長)」他、医療等ID関
連委員会委員、日本医師会「医療等ID運用に向けた諸課題検討委員会」など。

 

私はデイケアセンターで食事づくりを手伝っています。本当は囲碁や将棋の相手ができればいいのですが、私にはできないので。自生するジャガイモを使って料理することもありますし、スムージーは毎回作っています。このスムージーの評判が良くて、レシピを教え欲しいと言われます。うれしいですね。いろいろチャレンジできる食事づくりを通して、行くたびに新しい気持ちになっています

もう一つは、在宅医療の運転手です。鶴見区は道が細くて坂も多く、慣れるまでは大変でした。私は医師でも看護師でもありませんから、訪問先では患者さんやご家族の話相手をしていますが、在宅医療は重度の患者さんが多く、会話を通じて皆さんの『愛』に触れることもしばしばです。私はこれまで大学にいて、アメリカにも10数年いましたが、いま鶴見区民として、ものすごくいろんなことを学んでいるなと思います


 
研究者・教育者として多忙な日々を送っている金子さんが、ご自身の地元で介護のボランティア活動を楽しんでいるとは、会場にいた全員が驚くと同時に、ボランティアに対するイメージが少し変わった方もいたのではないでしょうか。
 

ソーシャルキャピタル ─ 健康は人々のつながりから生まれる

 
地域や社会の人々のつながりや信頼関係を表す「ソーシャルキャピタル(社会的資源)」という言葉。金子さんはこの言葉を、「いろいろな人と会話したり一緒に何かをしたりすることで新しい良いことが生まれる秘密のカギ」と説明しました。
 
アメリカ・ペンシルベニア州の人口1,600人の小さな町、ロゼットは、周辺地域も含め一帯が石切り場であるにもかかわらず、1950年代の調査では心臓病の発症率が周辺地域の半分以下でした。その理由は、住民の交流が盛んで多世代家族であったこと、つまりソーシャルキャピタルが高いことにありました。しかしその後の都市化によってソーシャルキャピタルは低くなり、10年以上経ってからの調査では周辺地域と同レベルの発症率に下がってしまったそうです。

また、全米50州で調査した「健康」「キッズカウント(子どもにとっての暮らしやすさ)」「高校生の学力」「成人の死亡率寿命」といった各指数とソーシャルキャピタル指数の相関関係からも、ソーシャルキャピタル指数が高いほどよい傾向が見られたそうです。
 

 
日本にも事例があります。金子さんが25年以上かかわっている岩手県遠野市のコミュニティ型遠隔治療でも、集会所で毎週顔を合わせ、和気あいあいと健康測定を行なうことで住民の測定数値に改善が見られたそうです。
 
「健康というものは、一人で得るものではなく、地域のみんなと一緒に何かをすることで生まれてくる」というのは、すでにデータで実証されていることなんですね。
 

まちには、同世代との交流だけでなく、次世代の子供たちとの交流機会も

 
地域での活躍の場は、健康や介護の現場だけではありません。地域の皆さんや保護者が先生と一緒に学校を運営していく「コミュニティ・スクール」は、次世代の子供たちと交流できる場でもあります。コミュニティ・スクールは、金子さんらの提案によって法律(地教行法第47条の6)となり、2007年から施行。2017年4月現在、3,600の公立小中学校で運営され、青葉区には横浜市でもっとも多い17のコミュニティ・スクールがあります。

青葉区は横浜市で1、2位を争う平均寿命の長い区ですが、2番目に15歳未満の年少人口も多い区です。これからの困難な時代を生き抜いていくに子供たちの学びに、皆さんの経験や能力を生かす場はたくさんありそうです。

「すごく平文ですが」と前置きして送ってくれた金子さんのメッセージ「交流が盛んな街をつくることが大事」を受け取って、会場にいた皆さんはこれから、どのような交流をつくっていくのでしょうか。
 

地域に暮らしている人がその地域をつくる

 
藤沢市生まれで藤沢市育ちの鷲尾公子さん。鷲尾さんが理事長を務めるNPO法人ぐるーぷ藤は、2007年に福祉マンション「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」を、今年5月には「ぐるーぷ藤二番館・柄沢」を建設。また藤沢市と一緒に地域ささえあいセンター「ヨロシク♪まるだい」も運営するなど、藤沢市の福祉を牽引しています。
 


NPO法人ぐるーぷ藤理事長 鷲尾公子さん

『歳をとっても、病気になっても、障がいがあっても、自分らしく安心して暮らせる街を創りたい』と、主婦5人で市民同士の
たすけあいの組織を1992年に設立し、訪問介護に取り組む。2007年複合型福祉マンション「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」建設。
2014年藤沢市民の豊かな暮らしの支援活動を行う非営利団体が連携・共同して地域福祉の推進をめざす「ふじさわ福祉NPO
連絡会」を設立。2017年地域の防災拠点も担う「ぐるーぷ藤二番館・柄沢」を建設。藤沢市 個人情報保護制度運営審議会・
藤沢市市民活動推進委員会の委員を務める。

▼NPO法人ぐるーぷ藤:http://www.npo-fuji.com/

 

1992年に鷲尾さんら5人の主婦による小さな助け合いの一歩から始まり、150人ものメンバーを擁するNPO法人になった今も「市民目線」を忘れず、みんなで話し合って進むべき道を決め、対外的な説明責任もすべて果たしてオープンな運営をする。そして、自分たちが暮らす“藤沢市”にとことんこだわる。─ ぐるーぷ藤の活動は多岐にわたりますが、一貫してこの考えが根差しています。

鷲尾さんは、認知症の母親を7年間介護した経験があり、自らも団塊の世代。「自分の老後はいったいどうなるんだろう」と考えたことがきっかけで、当時の生協活動の仲間とまちづくりについて学び始めました。そして出した答えが「自分らしく生きていくためには自分が立ち上がらなければいけない。自分たちでまちづくりをしよう」でした。とはいえ、最初は楽なことではありません。立ち上げ当時を鷲尾さんは「手漕ぎボートで荒波に乗り出したみたいだった」と言います。

私たちは素人ですが、『思い』を強く持ち、そして『学び』によって福祉のプロとしての自信をつけていきました。本当に特別なことは何もないんです。『地域に暮らしている人がその地域をつくる』と私たちは思っています。活動しながらニーズをくみ取って、それを実行してきただけです

 

地域のニーズに対応し、NPO法人ながら多額の資金調達に成功

 

 
ぐるーぷ藤一番館の建設にあたっては、有識者のアドバイスも得ながら資金調達についての研究会を起ち上げて検討を重ねました。その結果として生まれたファンドは、2カ月で9,950万円を集めることに成功。「集めた期間は2カ月ですが、それまでの15年間のぐるーぷ藤の活動が地域で信頼を得ていたからだと思います」と鷲尾さん。

資金のないNPO法人であっても、住み慣れた地域で最後まで自分らしく生きたいという地域のニーズに対応し、その明確なミッションが多くの地域市民から支持を得ることにつながりました。

そのぐるーぷ藤一番館には、高齢者住宅、看護小規模多機能型居宅介護、看護ステーション、障害者グループホーム、相談窓口、レストラン、幼児園が入っています。「精神障害者のいるグループホームが併設されている有料の高齢者住宅に入ろうと思う人はいないから止めたほうがいい」と大学の先生からアドバイスを受けたそうですが、高齢者、障害者、子供が一つ屋根の下で助け合って暮らすという思いを皆さんが理解してくれ、この理由で入所しないと言った人はゼロ。高齢者住宅は常に満室だそうです。

市民参加型事業だからこそ、誰もが責任と義務と権利を手にする働き方を

 
「福祉ほど楽しい事業はない」と言い切る鷲尾さん。だからこそ賃金にもこだわります。ぐるーぷ藤では活動を“ボランティア”ではなく“仕事”として捉え、最低賃金を保証して事業をスタートさせました。今春、ぐるーぷ藤二番館の福祉職の基本給が藤沢市職員の初任給と並んだそうです。

福祉の現場は人手不足も悩みの種ですが、ぐるーぷ藤では一般募集を行なわず、メンバーの紹介で確保しています。履歴書に30もの勤務歴が書いてあっても断りません。「福祉には人を育てる力がある」と考えているからです。また自ら「働きたい」とやってきた人も受け入れ、その人に合う仕事を作ることもあります。ワークシェアリングの調整は大変ですが、労力は惜しみません。

市民参加型事業は、責任と義務と権利を手にする働き方。─ ぐるーぷ藤では、働き方から活動費まですべてメンバーで話し合い、会議によって決定し、役員報酬を決めるのもメンバーです。こうした取り組みから、ぐるーぷ藤の離職率は3%以下だそうです。
 
「ヨロシク♪まるだいでは、82歳の方が料理をつくっています。人の役に立てること、そして、社会とつながっていること、孤立しないこと。私たちの幸せ・安心はここにあります」と鷲尾さんは話します。地域社会を市民でつくり、そのための働きやすい環境も自らがつくっているぐるーぷ藤。その「ソーシャルキャピタルを使い尽くす」活動は、青葉区でまちづくりを目指す皆さんに多くのヒントを与えたことでしょう。
 

 

「セカンドキャリア地域起業セミナー」開催

 

あおば × マスマスカレッジ
「SECOND CAREER 地域起業セミナー」開講!

 

 
来場者アンケートでは、登壇者の思いに共感する声や、「地域活動の魅力が伝わった」「具体的に活動できそうな気になった」「私達の事業がやるべきこと、気づくきっかけとなりました」など、意欲的な感想も多く寄せられました。

青葉区では、本フォーラムを皮切りに、地域で活動を始めたい人を対象にした複数のセミナーを開講。その1つとしてKiiでは9月14日より「セカンドキャリア地域起業セミナー」を開催します。ソーシャルビジネスの基礎的な知識を学んだり青葉区の先輩起業家から話を聞いたりしながら、起業のための仲間づくりを進める全5回の連続セミナーです。その後はチームごとに現地視察を重ね、来年3月10日(土)に全セミナーの受講者が一堂に会するクロージングイベントで成果を発表します。
 
横浜市でソーシャルビジネスの起業家育成を手掛けるKiiが、個別相談を通して経営的、経済的視点から各チームの起業プランをサポートするのもこのセミナーのポイント。セカンドキャリアとして地域での起業に興味のある方、あるいはすでにプランをお持ちの方、ぜひこのセミナーで自らのプランをブラッシュアップしてみませんか。
 
SECOND CAREER 地域起業セミナーhttp://massmass.jp/project/aoba_secondcareer2017/
 
 
text:柏木 由美子 (スパイスアップ編集部)
photo:堀篭 宏幸 (mass×massスタッフ)