神奈川県住宅供給公社さんと、関内イノベーションイニシアティブが協働でお届けする対話型トークイベント「with Public」。第4回目となる今回のテーマは、「郊外・まちの共用部」です。
高度経済成長期につくられた団地やニュータウンが、人口減少や高齢化を迎えているいま。「住む」ためだけの住宅地から一歩踏み出すには、どうすればいいのでしょうか?
団地の広場や集会所、さらには個人の庭や農地までを含めた「まちの共用部」をきっかけに、どんな出会いやコミュニティを育んでいけるのか。今回はゲストにHITOTOWA INC.代表の荒昌史さんと、横浜国立大学大学院教授の野原卓さんをお迎えし、弊社代表の森川がホストを務めて語り合いました。そのセッションの模様をレポートします!
コミュニティから生まれるプロジェクトと「玄関の外」のポテンシャル

イベントの冒頭では、弊社代表の森川と、神奈川県住宅供給公社の鈴木さんから、今回のトークのきっかけについてお話ししました。
Kiiと神奈川県住宅供給公社さんとのコラボレーションは、2015年にスタートした団地の空き店舗活用プロジェクトが始まりでした。
Kiiは、関内でコワーキングスペース・シェアオフィス「mass×mass」の運営をはじめ、地域課題に取り組む起業家育成スクールなどを手がけてきました。
コロナ禍にはシェア型書店「LOCAL BOOK STORE kita.」をスタートし、たくさんの棚主さんと一緒に温かな場を育ててきました。コミュニティをつくり、そこから「まちにあったらいいな」と思うものをプロジェクトにしてビジネスにつなげていく姿勢は、今回のテーマにもしっかり繋がっています。
一方、住宅供給公社の鈴木さんは、おうちの中がプライベートな空間であるのに対して、大規模な団地には玄関を一歩出ると広場や公園、商店街といった豊かな空間が広がっていることに目を向けられました。
「団地ならではの豊かな暮らしって、実は『玄関の外』にあるんじゃないか」という問いかけから生まれたのがトークシリーズ「with Public」です。
単に「住む」ためだけの場所から、一歩外に出て人とゆるやかにつながる“関わりしろ”をどうつくっていくか。今回はこの「玄関の外」にあるポテンシャルを「まちの共用部」と捉え直し、これからの郊外の暮らしと地域のあり方を深掘りしていきました。
挨拶ができる日常から100年後の風景まで!住まいと庭から育む「さりげない関係性」のつくり方

最初にお迎えしたゲストは、集合住宅のコミュニティ再生に取り組むHITOTOWA INC.代表の荒昌史さんです。創業以来、デベロッパーや行政と一緒に10年・15年という長いスパンで地域に関わってきた荒さん。荒さんが大切にしているのは、大きなイベントを開催したり強いコミュニティをつくったりすることだけではありません。
「大きな話題や強い繋がりを作ることだけが目的ではありません。暮らしの中で、身近な人とのちょっとした会話や挨拶が存在すること自体に大きな価値があるんです」(荒さん)
近所ですれ違ったときに挨拶ができる、困ったときにちょっと相談できるといった日常の“さりげない関係性”があること。そうした何気ないつながりこそが、いざという災害時や子育て期にみんなを支えるセーフティーネットになると言います。
神奈川県住宅供給公社さんとHITOTOWAさんが連携して取り組む「フロール元住吉」では、本来なら住戸として貸し出せるお部屋をカフェやシェアラウンジといった共用スペースにしています。
ここで活躍しているのが、「守人(モリビト)」と呼ばれるスタッフの皆さんです。
単に建物を管理・清掃するだけでなく、コミュニティの伴走者として日常的に住民さんと関わり、友人のような温かい関係を築きながら一緒に住まいを育てています。
さらに荒さんは、ご自身が暮らす東京郊外・東久留米市学園町での「ひととわ不動産」の取り組みについても紹介してくれました。
地元の農家さんとタッグを組み、家を建てる数を少し減らして、庭や木々、農に関われる余白をしっかり残した住宅プロジェクトを進めています。
個人の庭であっても地域に開かれて世代を超えた関わりが生まれるなら、それも立派な「まちの共用部」になります。荒さんはご自身の庭でお隣の高齢男性が木を切ってくれ、それを幼い息子さんがじっと見つめていたエピソードを振り返り、次のように語ってくれました。
「庭も、まちの共用部なのかもしれません。今生きている子どもたちが100歳になる時代を見据えて、100年後の街にどんな風景や人との関係を残せるかが大切なんです」(荒さん)
「ただ住む場所」からワクワクする「まち」へ!共通テーマが呼び起こす地域の「隠れたプロ」

続いてお迎えしたゲストは、都市デザインやエリアマネジメントを研究する横浜国立大学教授の野原卓先生です。野原先生は、昔のニュータウンが「住む」ことに特化してつくられてきた歴史を振り返ります。
高齢化が進むいま、「ただ住むだけ」の場所のままでは限界があります。これからは働く・遊ぶ・表現するといったいろんな営みが重なる場所へとアップデートして「住宅地を、もう一度『まち』にしていく」ことが求められています。
相鉄いずみ野線・南万騎が原駅前の「みなまきラボ」では、外部の専門家を呼ぶ第一段階から、住民自身が企画して動く第二段階へとステップを重ねることで、地域に眠っていた特技や経験を持つ「隠れたプロ」がたくさん見つかりました。
また、大田区の町工場跡地を活用した「くりらぼ多摩川」では、職人さんの技術を子どもたちが体験するワークショップや夜の交流会が開かれています。段ボールの輪ゴム銃を作りたい小学生と元職人の男性が一緒に設計図を描いたお話のように、共通の「テーマ」があることの強さを野原先生は強調しました。
「誰も『世代間交流をしましょう』『子どもの居場所をつくりましょう』とは言っていません。『ものづくり』という共通のテーマがあったからこそ、結果として世代を超えた関係が生まれたのです」(野原先生)
野原先生は、無理にイベントやプログラムを企画しなくても、人々がふらりと訪れて思い思いの時間を気ままに過ごせる環境づくりの大切さを教えてくれました。
「空いている場所があるから何かに活用しなければならない、という発想ではなく、そこに暮らす人が自分の暮らしややりたいことを自然と表現したくなる環境をつくることが大切です」(野原先生)
施設や共用部を活用すること自体を目的にするのではなく、一人ひとりの「やってみたい」というテーマをきっかけに地域へひらいていくことが、結果として素敵な「まちの共用部」を育てていくんですね。
【クロストーク】地域に眠る力を引き出し、共に育てるための問いとヒント

後半のクロストークでは、参加者の皆さんからもたくさんの質問が飛び交い、賑やかな対話の時間が広がりました。
トークでは、モチベーション・スキル・アセットの組み合わせ方、自分の「やりたいこと」が少しお金になる小商いと働く視点、土地所有者の思いを言葉にするローカルデベロッパーの役割、数字だけじゃないストーリーを見る評価軸、自治会とテーマ型コミュニティの連携、子どもたちが尊敬できる大人に出会える環境づくりといった6つの視点が話題にのぼりました。
なかでも盛り上がったのが、地域活動を持続可能にする「小商いと働く視点」です。すべてをボランティアに頼るのも、逆にビジネスにしすぎるのも難しい中で、荒さんからは自分のやりたいことが少しお金になり、それが地域貢献にもつながるバランスの重要性が語られました。
野原先生も、場所を活用すること自体を目的にするのではなく、子育て中の人や何か始めたい人が自分のスキルを自然に活かせる「小さな関わりしろ」をまちの中に散りばめていく大切さを補足されました。
また、子どもたちが「尊敬できる地域の大人」に出会えるまちづくりについても深い共感が広がりました。現代の都市環境では子どもたちが地域と触れ合う機会が減っていますが、荒さんは都市を「子どもたちが尊敬できる大人に出会うための装置」と捉える視点を提案。
野原先生も、町工場や共用部を地域にひらくことで、子どもたちが職人技や多様な大人の働き方に触れ、学校とも家庭とも違う居場所や学びの場が生まれていくと語ってくれました。
小さく試し、街の中に「関わりしろ」と「余白」を増やしていく

古い団地の集会所や、使い道に悩んでいる共用部。「こうすれば絶対に成功する!」という万能の正解ルールはありません。その場所の歴史やストーリーを大切にしながら、そこに暮らす人の小さな「やってみたい」という声に耳を傾け、小さく試していくプロセスこそが一番大切です。
「まちの共用部」は、みんなで義務的に管理する大変な場所ではなくて、一人ひとりが自分の暮らしや好きという気持ちを少しだけ外に開いて、誰かと緩やかにつながれる場所。
私たちmass×massでも、地域で新しい挑戦をしたい人を応援しながら、人と人、人とまちが優しく交差する“関わりしろ”のある場づくりをこれからも楽しんで続けていきます!
