関内イノベーションイニシアティブ(以下、Kii)の代表治田が「いまぜひお話を伺ってみたい!」と思う方をゲストにお迎えして本音トークを繰り広げるトークイベント「スパイシー談義」。
第三回目の10月16日(火)は、「THE・立ちはだかる壁への対処法」がテーマ。
元NHK報道番組ディレクターで現在はサイボウズ株式会社で様々なプロジェクトを手がける三木佳世子さんをゲストとしてお迎え。
前半では、三木さん、そして今回は弊社代表治田からも、これまでぶつかってきた壁とそれをどう乗り越えてきたかについてお話しし、
後半では、参加者の方も巻き込みながらクロストーク形式で進めていきました。
今回のゲストスピーカー
サイボウズ株式会社
未来ドキュメンタリー講座主催(元NHK報道番組ディレクター)
三木佳世子さん
三木佳世子さん ◆プロフィール サイボウズ株式会社 チームワーク総研アドバイザー 未来ドキュメンタリー講座主催/メディアPR MiraiE代表 (元NHK報道番組ディレクター) 2006年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。 NHKに入局し、報道番組のディレクターとして、ニュース番組・ドキュメンタリー の取材・制作にあたる。NHKスペシャル「認知症行方不明者1万人の衝撃」ではNHK会長賞・菊池寛賞を受賞。幻冬舎から書籍 も出版。2015年、男児を出産。育休取得後、時短で復職。制限ある中でいかに働いていくのか葛藤を抱えるようになり、「ワ ーママ解放プロジェクト」という朝活コミュニティを立ち上げ。 模索の中で、生き方・働き方を自分で決める人生にしたいと決 心し、2018年、サイボウズに転職。 現在は、他社の組織開発のお手伝いをするチームワーク総研アドバイザーの業務と全社イ ベントなどを取り仕切るコミュニケーション促進チームを兼務しながら、自分自身もメディアPRのコンサルティングや発信力 を高める講座「未来ドキュメンタリー」の講師として複業をするなど、新しい働き方に挑戦中。日本中の働く人たちが、どんな 境遇にあっても笑顔で楽しく働ける社会を作りたいと考えている。https://miki-kayoko.com/
・自分から壁を作っていた幼少期。恩師の言葉をきっかけに「暗黒時代」を乗り越えた(三木さん)
・キャリアの断絶という壁にぶつかってから、乗り越えるまで。繰り返してきた三つのこと(三木さん)
・壁は自分の思い込みが作りだしている?目的と手段は間違えてはダメ(三木さん)
・「壁ばかりだった」これまで。すべてに闘うことをやめ、つけたのは「鈍感力」(治田)
・ - クロストーク - 職場や家庭で壁を乗り越える伝え方のコツ
自分から壁を作っていた幼少期。
恩師の言葉をきっかけに「暗黒時代」を乗り越えた
現在はサイボウズ株式会社 チームワーク総研で働かれている三木さんですが、もともとはNHKで報道番組・ニュース番組でドキュメンタリー等を作る社会派なディレクターでした。13年のディレクター人生の中では、NHKスペシャル「認知症行方不明者1万人の衝撃」でNHK会長賞・菊池寛賞も受賞されています。その後、出産を経てワーキングマザーとなり、色々もがいてみたものの もやもやし、環境を変えようと転職をした先がサイボウズ株式会社。
現在は副業で自己PRやメディアPRの講座などもやられています。
そんな三木さんは、物心ついた時から壁を意識させられる環境にあったといいます。三木さんは元々在日韓国人として日本に生まれ、「とにかく人と同じじゃ選ばれないから何でも誰よりもできないといけない」とお母さまに言われて育ったとのこと。そのため、「壁が立ちはだかってるっていうか、壁そのものを背負っているような子供時代」を過ごし、人との間にも自分から壁を作っていたそうです。
以来、自分と他の子の何が違うのか理解ができないまま、自分のアイデンティティに大きな秘密を抱えていることが心理的な壁になっているように感じて生きてきました。
三木さんいわく「暗黒時代」というその壁を乗り越えたきっかけは、高校時代に通っていた塾の恩師の言葉。
「未来はempty canvas」という言葉が三木さんには衝撃的で、「自分の未来はこれしかない」と限定されていたものが、「自分の人生はまだ真っ白なキャンバスで、たかだか十何年しか生きていないのに決められていた気になっていたな、試してみないと分からないな」と初めて思えたのがこの先生の言葉だったそうです。そこで気づいたのが、マイナスだと感じていた「在日」という自分のアイデンティティが自分に色んな問題意識をくれているということでした。
世の中には障がいがある人もいるし、女性と男性という違いだけで分かり合えないこともある。どうすれば、いろんな違いを認め合って人と人が幸せに生きていけるのか、ということを自分は人生のテーマにしたい。そう思った三木さんは、初めて自分で自分のことをちゃんと言葉にして、慶應大学SFCに自己推薦のAO入試で入学しました。
多様性の受容や多文化共生社会の実現という課題意識について語る上で、自分のことを隠したままというのは全然説得力がないな、と自己開示の重要性を感じたのもこの時。大学生になって初めて、周囲に自分の出自を打ち明け、受け入れられる体験を重ねていきます。
「ありのままの自分や自分の本音を伝えても大丈夫、むしろそれが選ばれる理由になる」と思えたことが大きな成功体験になったそうです。そして、「自分が作る番組で人の心の中の『壁』みたいなものを乗り越えられる変化を起こしたい」いう想いから、NHKに入社しました。
キャリアの断絶という壁にぶつかってから、乗り越えるまで。
繰り返してきた三つのこと
NHK入社後も様々な壁にぶつかっては超えて、ということを続けている中で、大きな壁となったのが、妊娠という女性のライフイベントだったそう。
希望部署に行くはずのタイミングで妊娠がわかり、それがはっきり原因だとはわからないものの、異動がなくなってしまったのです。
その出来事によって、三木さんの中で「女性のライフイベントがキャリアの断絶を生む」という大きな壁の存在を認識することとなりました。
その上、「NHKの三木」として十何年生きてきたことで、発言に常に気を付けなければいけないことから、「他の人のことは沢山取材して番組で伝えてきたのに、そのディレクター人生の中で自分は自分の言葉を失っていた」ということに気づき、自分の発言のできなさに衝撃を受けたそうです。その時、どうやってこれを乗り越えられるかと考えて起こした行動が、外部のセミナーに参加するなど、学びを得るために外にでていくということでした。
そこで自分を内省して感じたことをアウトプットする、ということを繰り返すことで壁を越えてきたといいます。
こうした繰り返しの中で、いつも三木さんがやってきたこととして紹介されたのが、三つ。
一つ目は、とにかく行動を止めないこと。自分一人で抱え込んでは壁が大きくなってしまうばかりなので、今困ってるな、と思ったら外に出ていく。
二つ目は、自分の本音に耳を傾けること。こういう事を思ってる自分の方が皆に評価されるんじゃないか、という風なことを知らず知らずのうちに考えがちな中、本音で動くのは意外と難しいこと。でも、「その場にいる10人のうち9人にそれ変だよって言われたとしても、一人が『あ、なんかそれいいんじゃない』って言ってくれたらいい」、というのが、経験上人の期待を想像して動くと大体うまくいかなかったという三木さんの考えです。
そして最後は、やっぱり言葉にして伝えてみるということ。自分の気持ちを察してほしいとか、言わなくても分かってほしい、というのはよくないということでした。
壁は自分の思い込みが作りだしている?
目的と手段は間違えてはダメ
ここまで壁の乗り越え方について話してきましたが、ここで三木さんがおっしゃったのは、「そもそも皆が壁って思っていることって、本当に壁なんですかね」ということ。
サイボウズには問題解決メソッドという共通のフレームワークがあり、何か問題があるときには、「それは理想があって現実とのギャップがあるからそれを問題だと認識してるんだよね」という捉え方をするそうです。つまり、壁というのはたどり着きたい目的地があるから超えるもの。でも、意外と「壁」が好きな人が多いんじゃないか。
「壁を越えている、苦しむ頑張る自分が好き」「苦しまないと、私笑っちゃいけないかも」というような思い込みがあるんじゃないか、と三木さんは問題提起をしました。そういうマインドだと、常に壁を探して衝突していたい、そういう自分が好き、となってしまう。そうではなく、目的地にたどり着くために壁を超えるのであって、目的と手段は間違えてはダメ。もしかしたら、壁を作り出しているのは自分自身かもしれない、だから元も子もないけど、自分が壁だと思わなければ壁じゃないのかもしれない。
そんなお話で前半のお話は締めくくられました。
「壁ばかりだった」これまで。
すべてに闘うことをやめ、つけたのは「鈍感力」
次に、「壁ばかりだった」という治田からも話をさせていただきました。
過去に6社を経験しており、現在の関内イノベーションイニシアティブ株式会社の代表取締役という役割に就くまで、そして就いた後も、様々な壁があったという治田。過去には、大学受験に失敗し、学歴コンプレックスから社会人になってから慶應大学SFCに入り直したということも。
そんな数々の立ちはだかる壁に対処している中で起きた変化は「かなり鈍感力がついたこと」だとのこと。
ひと昔前はすべてに闘っていたけど、「真面目にすべてに向き合っていたら自分が壊れてしまう」と気づいたのは、喘息になったり、二回ぐらい救急車で運ばれたり、と身体に影響が出てきたため。
何度もご主人に「あなた死にたいの」と言われても何かを乗り越えることが好きだったけど、「そんなことをしたって何もならないんじゃないか」と一番の理解者であるご主人にサポートをされてきたことが変化のきっかけのようでした。
- クロストーク -
職場や家庭で壁を乗り越える伝え方のコツ
後半は、参加者の方々のご質問やご相談にお答えする形で、クロストークを進めていきました。
参加者Aさん 三木さんがお仕事でも活躍されている様子で、自分のキャリアも大事にされていらっしゃると思うんで。ご家庭での三木さんというか、ご家庭での役割分担というか。旦那さんがどんな方なのかなって気になりました。子育てしてるのに色んな所にポンポンいけるっていう家庭環境というか、秘訣を聞きたいです。
三木さん 質問ありがとうございます。
まさに今自分の中の壁がそれで、4歳の母親がですね、仕事終わりにここで飲んだくれてしゃべってるっていうのが社会的にみられてどうなのかっていうね。なんかね、キラキラしてるねとか、ママっぽくないねみたいな、そういう周りからのちょっとした聞こえてくるものに自分の心がかき乱されるっていうのが今の壁で。でも私はそこでじゃあ家に定時に帰ります、子どもと向き合います、っていうのを、やる日もありますよもちろん、育児放棄してるわけじゃないんですけど、じゃあ今日ここに来て皆さんと会いたい、皆さんと話したいっていう時に諦めると良くないんじゃないかなと思って。
じゃあそれをサポートしてもらえる家族の状態をどう作っているかっていうお話をすると、私は自分がやりたいこととかを、自分の一人称で語らずに、これちょっと戦略的なんですけど、「家族人称」で語ってて。
「私がこれやりたいからこの日ここに行く」って言うと、ちょっとなんか自分ばかりサポートしてってなっちゃうと思うんですけど、「ここに行くとこういうことができて、半年後になったら私とあなたと息子はこんないい感じになると思うんだよね」、みたいな。
家族の未来像を描いて、そのために私は今あそこに行かないといけないんだけどどう思う、って言ったら、YOU行っちゃいなよ、みたいな感じになって。で、帰ったら「今日はねこんな人に会ってこんなことがあって、あなたが早く帰ってくれたおかげで私こんなことができた、本当にありがとう」みたいな。
そのコミュニケーションだけで、うまくいきます。
治田 私は今高3と中3の娘がいるんですけども、まあでもほとんど旦那に押し付けてました(笑)
押し付けたっていうか、彼女たちが小さい頃は、旦那の実家に同居していて、おじいちゃんがこどもを大好きで。保育園にあずけてるのに、時間より前に引き上げてきちゃうんですよ。それを見たおばあちゃんから文句言われるし、私お金払ってるからお願いだからやめてくれって思ったけど、今となってはそのおじいちゃんとの対話が良かったなと思っていて。
でもやっぱり、押し付けあいじゃないけど、ないですか。
今日は私は会議があるのに、あなたも会議があるからどうするみたいな、そういうのないの?
三木さん タイムツリーっていうアプリで夫婦の予定を共有していて。先に入れた方が勝ち、みたいなので。
治田 それもすごいな。
治田 うちは旦那が公務員だったんで、5時上がりなんですよ、だいたい。
なので、迎えは大体旦那で、自分が犠牲になったことがなくて、というか、すごく許されてました、うん。それはたぶん私の場合特殊で、旦那がひとまわり上だったんですね。
で、私がやりたいことを応援してくれていたので。でもうやっぱり相当、土日とかのケアはちゃんとしてました。
参加者Bさん 壁が今目の前にあるのに、学校を辞めなきゃいけないかもしれないとか留年しそうだとか。やりたいことを見つけてないとか、大学決まらないとか。こんなにあるのに全く壁を感じていない人が家族にいます。その彼に壁を分かってもらいたいなと思うんですが。
三木さん 壁って認識してない息子さんのままじゃダメなんですかね。
参加者Bさん 留年しちゃう。
三木さん 留年、なっちゃえばいいんじゃないですか。困んないとわかんなくないですか。
治田 ママがサポートしてくれると思うから甘えてるんだと思う。困んないとわからないですよね。
参加者Bさん そもそも論になっちゃうんですけど、わりと今の若い子って、超えてこうとか、壁とかないから。このトークは、20年後くらいには、何それ、みたいになるのかなって。
三木さん 壁を超える自分が好きって昭和なんですかね。もう今、令和ですもんね。
治田 昭和なのかもしれないね。
参加者Cさん 三木さんに聞いてみたい質問です。仕事の中でこうして行こうよって話をするときに、頭がカッチカチになってる人になかなか伝わらない。どうしたら、届く言葉を紡ぎだせるようになるのか。伝えるプロだと思うので、何かコツはないでしょうか。
三木さん ご質問ありがとうございます。自分と違う固い人に届ける伝え方、言葉の選び方ってありますか、ってことですね。
もし私だったらなんですけど、「この人に本当に理解してほしい」というターゲットが決まったら、まずその人の話し方を聞きます。その人が誰かを説得してるときとか、その人が何かを伝えたいって思っているときに、どういう伝え方をこの人はするんだろうっていうのをちょっと調査するっていうか。なんか、フムフムフムフムって聞き耳を立てて、この人は結論から言うとその先をちゃんと喋っていく人なんだなあとか、あ、なんかこの人はあんまり形容詞つけないでしゃべるな、とか、曖昧な言葉じゃなくて、断定系を良く使うぞ、みたいな。その傾向をまずつかんで、で、対策を練ります。武装せずに行くと痛い思いをして、もう言わないってなっちゃうから。
だから紙に伝えたいことをブロックで書きだすとか。
何かを伝える時って相手に何か行動を起こしてほしいから伝えると思うんですよね。なので、例えば何々部長になんとかと言ってほしい、みたいな自分の目指すゴールをまず書いて、そのためにその人が好みそうなロジックをどういう順番で立てていくかっていう戦略を立ててから、ちょっと練習して話に行くかも。
参加者Cさん そうですね、観察するっていうのはあんまりしてなかったと思います。
三木さん 相手に合わせるといいって言うじゃないですか。話すスピードとか声のトーンとか。それをまず見る。
人によって話し方に癖ってすごくあって、その人のパーソナリティが出てくるんですよね。言い切れない人はちょっと自信がないのかなとか、やさしいんだろうな、とか。
だから伝えたい相手の傾向を見るのは本当にいいことですね。
治田 私からお伝えできることとすれば、関係性って膠着しているというか、一定でもう決まっているじゃないですか。なのでそれを外して、伝えたいことを他者から言わせるっていう事を私はやります。
例えば講座とかをやっているときに、同じことを言ってるんだけど、違う人が言えば聞いてくれる。この関係性は部下から言われるのはやだとか、この対等な関係から言われるのは嫌だっていうのをどう外すかっていうときに、別のシチュエーションをつくって、この人がこう言ってる、だからいいんじゃないですかっていう風にやる。
三木さん 第三者をかませる。
治田 そう。それが大事かなって。
事務局が言っても誰もきかないんですよ。若造がなんだとかやっぱりいろんな偏見とか、思い込みとかも入るので、権威じゃないけど、その人がこう言ってるんだからそうじゃないですか、っていうと断りようがないっていうか。それも交渉術だとは思います。
治田 それでは、ここで一旦終わりということで。この場はまだまだ開放していますので、もっと話したいという方はぜひ活用してください。
それでは本日は皆さんご参加いただきありがとうございました。
text mayu setogawa
edit/photo hiroyuki horigome