関内イノベーションイニシアティブ(以下、Kii)の代表治田が「いまぜひお話を伺ってみたい!」と思う方をゲストにお迎えして本音トークを繰り広げる、「治田友香のスパイシー談義」。1/21(火)の開催で6回目を迎えました。
今回のテーマは、「誰かの夢を応援すると自分の夢が前進する 〜SLOWな経営が目指すもの〜」。
ゲストは英治出版株式会社代表取締役の原田英治さんです。
原田さんは、英治出版の経営以外にも、社会起業家ネットワーク「アショカ財団」のアドバイザー、茅ヶ崎の建設会社第一カッター興業の社外役員、公益財団法人ASF日本協会の役員として、多方面で活躍されています。
今回はご自身が起業し経営されている英治出版の軌跡や事業内容、海土町での親子留学について、参加者の方を巻き込んでのクロストークを行いました。
今回のゲストスピーカー
英治出版株式会社代表取締役
原田英治さん
◆プロフィール 大学卒業後にコンサルティング会社勤務を経て、99年に独立し、英治出版を創業。 創業時から“誰かの夢を応援すると、自分の夢が前進する”をモットーに、著者のメッセージをにパブリックすることで、 より良い明日に貢献する応援ビジネスとして出版業をおこなっている。また、社外ではアショカ・ジャパンアドバイザー、 AFS日本協会評議員、第1カッター興業社外取締役などを務める。日頃からも起業家が事業へのアドバイスを求めて、 英治出版まで度々訪れてくる。
出版社を再定義する。自分たちの役割は「公にすること」
原田さんは、コンサルティング会社から社会人をスタートし、4年間の勤務を経て退職、一旦家業の印刷会社に入りました。
「印刷会社の社員の人たちにも自分たちのプロダクトが書店に並ぶことで元気になってほしい!」「本が売れれば印刷の需要が高まる!」という想いから出版を始めようしていたものの、マネジメント観の相違から退職。
有限会社原田英治事務所、通称英治出版を1999年にスタートさせました。
英治出版のスッタフ教育・雇用の仕方、インセンティブの形がユニーク。
その理由は、創業当初から、「創造力」「想像力」を通して、「仲間と創る現実は自分の理想を超えていく」という世界観を共有しているから。
そして、その世界観を広げていけるメンバーを選んでいるのだそうです。
2002年に社員を初めて雇った際に、原田さんは出版社というものを再定義しました。
出版は「版を出す」と書きますが、本来の役割ではないと感じていた原田さん。
英語のpublisherの語源には「publicにする」という意味合いがきっと入っているだろうと思い、自分たちの役割は「publisizeする」こと、つまり公にすることであると気づきました。
同年の株主総会のときに「パブリッシャー宣言」をして著者の応援をする仕事を始めました。
「ブックファンド」という仕組み
治田:英治出版が著者を応援する仕組みとして、「ブックファンド」という仕組みがありますね。
原田:ブックファンドというのは簡単に言えば、「出資者を集めて、出版をして、その利益を出資者に配当する仕組み」です。著者を本気で応援しようと思うと、出版社の利益が優先されるやり方は都合がよくないこともあります。自分にはお金がないけれど、著者の夢を叶えるのに、自分の利益を優先することを止めなければいけない。
広告も出せないんだったら、この人たちにお金を出して、どういう出版をしたいかを考え、ちゃんとリターンを定義して、やりたいやり方で本を出せる仕組みがあったら便利ではないかと考えました。そして、もっと一般の人が出版を自分たちのブランディングに活用できたらいいのにという気持ちもありました。
治田:単なる自費出版というよりは、出版のプロとしてのノウハウも提供しながら、枠組みも英治出版が提供することで、出資者もつくということですね。
原田:そうですね。著者と出資者が一緒だと、本当に著者がやりたいことを出資者の利益を優先させて出版することができるんです。印刷業は受注産業です。
お客さんに依頼されて印刷物を作って、適正なマージンを乗せて、それが利益になります。それを出版業でやるならブックファンドみたいな形でやるのが適正だなと思ったんです。得た利益で、自社で出したい本を企画していれば、絶版になりづらいと思うのです。
治田:潰れない仕組みはすごく大事。潰れない仕組みをうまく色々と走らせることで、それは実現することができるのですね。
創業20周年の節目。親子島留学の制度を利用して、海士町へ
きっかけは、リクルートのじゃらんリサーチセンター主催「コクリ!キャンプ」で、島根県海士町の企業研修や地方創生をやっている阿部裕志さんと出会ったこと。その出会いを通して、英治出版のサテライトオフィスを作りたいと思ったからだそうです。
会社が20周年を迎えた現在、働き方がどんどん多様化しています。原田さん自身も二拠点や違う働き方へチャレンジすることによって、社員や他の人たちが同様の選択をした際、心の準備もその他の準備も整うのではないかと考えたといいます。そして実際に原田さんは、海士町の親子留学制度を利用して1年半の島での生活をすることになりました。
治田:島ではどんなことをしていたんでしょうか?
原田:「島無職」と言っていました。特に何かしたりとかはありませんでした。
釣りをしたり、漁師のおじさんと昼間から飲んで、午後に韓流ドラマを一緒に見たりとか。土曜日にはおじいちゃん達と囲碁をやったりしていました。ときどき島の経営者の人たちの相談に乗ったりもしていました。
治田:東京で働いていると職場と家の往復でしたが、島での生活では少し手持ち無沙汰になったりとかはしなかったのですか?
原田:いや、島の生活って意外に忙しいんですよね。「今から行ってもいいですか」というと3分後に来られたりして、家の中に入って来るんです。宅急便とかは便利で、家の鍵がかかっていないので、置いておいてくれるんです(笑)
治田:ちょっとコミュニケーションが強いところに行くと、経済的な価値みたいなところも少し変わっていたりするのでしょうか?
原田:島に行って気づいたのは、崎陽軒のシウマイとかをお土産で買っていくと、シウマイ1箱で鯛5匹くらいになって返ってくるんですよ(笑)そうするともらい過ぎてしまった感じがするので、お礼を言うんですが、島でお礼をするときは3回くらい言った方がいいそうです。もらったときに「鯛ありがとうございます。」と。翌日くらいに「昨日の鯛美味しかったです」と。またどこかで会ったときに「この前のあれ、どうも」と。という感じで3回お礼をいうとあの人は礼儀正しい人だと思われるそうです。これが島の相場観だと思うんです。
そこで気づいたのが「通貨の取引ってなんだろう」ということでした。
等価交換できることって便利ですよね。
等価交換できるから同時に精算できるんですが、これが結構、曲者だなと思いました。決済するとか、ファイナンスはフィニッシュと語源が一緒らしいんです。関係性を終了させるものらしいんです。コミュニティの取引は関係性を終了させたかったんでしたっけという話になります。
長い目の損得勘定が合っていて、むしろと関係性を終了ではなく続かせたいんですよね。だとしたら、等価交換ではなくて、どちらかが健全な負債感を持って、「あの人に鯛をもらってしまったから、今度はチョコレートを買ってこよう」と思った方が取引というかコミュニケーションが増えるじゃないですか。
もらってしまったからお礼を3回言うことによって、コミュニケーションが増える。
コミュニケーションも取引だとすると、あの仕組みは通貨じゃないことによって、すごく取引・交換を増やしているんです。交換が増えた方が仲良くなり関係も深くなりますね。通貨を介さない取引が多いこの島の経済というのはコミュニティを強く厚くするのにとても適した仕組みなんだなと思いましたし、体感しました。
治田:向こうでの生活を終えたのが8月で、今、帰ってきて半年くらい経ちましたが、何か変化や島の人との関係性が生まれたりとかはしていますか?
原田:1年半の生活で、島の人とのコミュニケーションの絆はとても強くできたなと思います。
治田:生活をなんとなく共有しているところが多いからでしょうか?
原田:そうですよね、お互いの家が鍵開いていたのを知っていた同士ですからね。
今年も正月とか海士の人たちが東京に来る度に英治出版に来てくれたり、夜中に呼び出されたりしました(笑)
それに不思議なことに海士の人たちが来ると家に泊めたくなるんですよね。
最後に
皆さん、今回のお話はいかがだったでしょうか?
営利的な視点だけでなく、自分の仕事の本当の意味について改めて考えるきっかけを与えてくださる内容ではなかったでしょうか?
また、島での生活の様子やそこから得たコミュニケーションと絆についても気付かされる点が多かったと思います。
改めて、原田さん貴重なお話をありがとうございました。
また、ご参加いただいた皆様もありがとうございました。
次回のスパイシー談義は、5/29(火)19時より開催いたします(オンライン実施予定)
詳細近々公開予定!少々お待ちください。