PROJECT / マスマスカレッジ

「好きなものを丁寧に売る」から始まるこだわりのお店づくり【マスマスカレッジ レポート!】

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mass×mass collegeは、あたらしい価値を生み出している方々と一緒にこれからの時代に大切になってくるエッセンスを学ぶためのスクール。今回の『エシカル』をテーマにしたスクールでは、社会貢献につながるプロダクトを取り揃えたお店づくりや消費のあり方について、実践者の方々のお話からこれからのお店づくりのヒントを探って行きます。こちらは連続講座ですが、単発での受講もできるので、興味のある方はぜひご受講ください!
 

第1回 7/27(木) 19:00 〜 21:00 『エシカル消費の最前線を知ろう
第2回 9/15(金) 19:00 〜 21:00 『地域に根ざしたこだわりのお店づくりとは?
第3回 10/13(金) 19:00 〜 21:00 『広がるユニバーサルデザインの可能性を体感しよう』
第4回 11/17(金) 19:00 〜 21:00 『福祉×ものづくり 障がい者作業所の商品開発の今』
第5回 12/8(金) 19:00 〜 21:00 『みんなでつくろう!横浜エシカル・キオスク』

▶︎プログラム詳細はこちら!

 
エシカルなお買い物やお店づくりについて学び合うことを目指す横浜エシカル・キオスク勉強会。夏休み明けの第2回は「地域に根差ざしたこだわりのお店づくりとは?」と題して、東京・西早稲田のスーパーマーケット「こだわり商店」の店主・安井浩和さんをお迎えして、お話しいただきました。
 
都の西北・早稲田大学のおひざ元、東京・西早稲田商店街の一角にある「こだわり商店」の前身は、安井さんの祖父が戦後開業した肉店。その後スーパーマーケット「稲毛屋」に転換して、父親の代を経て安井さんは三代目です。2000年代に入ってネットスーパーが台頭してくると、安井さんは「同じ土俵では戦えない。このままでは40歳になるまでにつぶれる」と思い2007年、直営3店舗とテナント8店舗をすべて閉店するという思い切った策に出ます。

創業60年の店を閉めたことで、ものすごい数のクレームが来たそうです。その時、ご家族の支えがあり、何を大切に生きていくべきか、人生の優先順位を改めて、新たなお店づくりに邁進していきます。
 

「丁寧に売る」の原点は、おみやげのお米

 

 
安井さんの父親は、早稲田商店会会長で衆議院議員も務めた方。年間3分の2以上を全国での講演に費やし、そのたびに各地のおみやげを持って帰ってきます。ある日、いただきものの福島県安達太良産のお米を売ってみろと言われ、「いただきものなのに…」と途方に暮れたそうです。そんな安井さんに、父親は「丁寧に売ればいい」と声をかけます。このお米は地元では幻のお米と言われるほど美味しいものなので、さっそく試食販売をしてみることに。これまでお店で売っていたお米は5キロ1400円なのに対して、1キロ1000円に設定しました。ほぼ5倍もする値段でしたが、一瞬で売れたそうです。その時に得られた満足感が、その後の安井さんのお店づくりの原点となります。
 
ビジネスの規模を大幅に縮小する過程で、安井さんは全国の生産者を巡って自分が気に入った商品、応援したい生産者の産品を取り扱う「こだわり商店」を栃木県茂木町のアンテナショップとして2007年10月にオープンします。しかし、半年後にはお店の方向性で悩むように。そんな時、お客様にどうすればいいか聞いてみたところ、「今目の前にいないお客さんを求めちゃダメだ」と言われます。この一言により「もっとお客様と会話しないと」と気づいたそうです。
 
また安井さんは、お客様だけでなく生産者に対しても「丁寧」です。
こだわり商店では現在、約1200の商品を取り扱っていますが、1品目1商品の原則を守り、バッティングする商品は仕入れないポリシーを持っています。開店以来仕入れている豆腐がある中、ある日その豆腐よりも品質が高く、安く多量に流通できるという営業が来たものの、これまでのお付き合いを重視して断ったそうです。その傍ら、いつも仕入れている豆腐屋さんに対しては、こういう営業が来たということを率直に伝え、商品の品質改善のために何ができるか一緒に考えないかと話したそうです。良質な商品と思いを持った全国の生産者・加工業者と、都市部にいる私たち消費者とをつなぐ「触媒役」として安井さんの真骨頂だと思いました。
 

「これからのお店は消費者がつくる」を次の世代に伝えるために

 

 
毎日お店に立ち、お客様と会話する安井さんが今力を入れているのは、全国からの修学旅行生による店頭での名産品の販売体験機会の提供です。修学旅行生も最初はやらされ感たっぷりで売っていることが少なくないようですが。15分も経つと呼び込みの声も大きくなって積極的に売ろうとするそうです。終わった後に「大変だったけど、お客さんから褒めてもらえたから頑張れた」と話す生徒たちに、安井さんは「地元のお店で店員さんに声かけてる?」と語りかけるといいます。相対してモノを売ることの価値を教えることで、次の世代にこれからのお店づくりのあり方を手渡していきたいという、安井さんの思いが伝わってくるエピソードもお話いただきました。
 
修学旅行生の受け入れによって、お店も潤い、商店街も潤い、生徒たちの収入を通じて地域も潤う仕組みをつくり実践されています。修学旅行生の販売体験は、まさに三方よしのプロジェクトになっているのです。
 

生産者と消費者が親戚付き合いできるようなお店

 

 
安井さんは最後に、こだわり商店の「こだわり」って何だろうかと自問自答するようにこう話してくれました。
 
「こだわった商品を置くだけじゃ足りないと思っています。以前に、親戚からお米をもらっているというお客さんにお米を勧めて断られたことがあるんです。その時思いました。そうだ、生産者と消費者が親戚付き合いできるようなお店にすればいいんだと気づいたんです。生産者にはお客様からのフィードバックを伝え、お客様には『この農家さんってこんな人なんですよ』といったように生産者のストーリーを伝える。今の小売業にないものを目指したい。ボクのこだわりは「好き」かどうか、その延長上でやっています。“わがまま商店”かもしれませんね(笑)」
 
思いを持った仲間が集まる。変化は自分たちでつくる。本気で楽しむと周りが気にならなくなる。立地条件は自分たちでつくることができる――。安井さんの言葉の数々に、受講生の皆さんも真剣に頷いていました。
 

 
自分が気に入った商品のストーリーを、手書きチラシの一言一句に込め、店頭での試食でお客様とたくさん会話しながら売っていく。そうした日々の仕事を通じて、全国の生産者と都会の消費者とをつなぐ場をつくり、住み続けたい地域を仲間と繋がりながら自分たちの手でつくりあげている安井さん。環境や社会的に「正しい」からエシカルなのではなく、そうしたことももちろん考慮しながら、最終的には「好きなものを目の前にいる地域のお客様に丁寧に売っていく」。これも一つの「エシカル」なのではないでしょうか。
 
毎回恒例のエシカルみやげは、こだわり商店で扱っている岩手県南エリアの昔ながらのお菓子(蒸しパン)「がんづき」。平均年齢70歳超の地元のおばあちゃんたちが開発・製造している本気のお味に、思わず唸らされました。
 
 

次回は10月13日金曜日!


 
次回10月13日(金)第三回のゲストは、高齢者や障害者などあらゆる人々の社会参加を推進するNPO法人Ubdobe代表理事・岡勇樹さん。国内で展開されている様々な事業についてご紹介いただきながら、国内外のユニバーサルデザインの玩具・食器・家具、最先端福祉機器、福祉作業所で作られたこだわりのプロダクトなど取り扱うセレクトショップについてお聞きします。白木さん、安井さんとはまた違った「エシカル」な世界を、ご一緒に学んでいきましょう。ご来場、お待ちしています。
 
▼参加申し込みはこちらの下方、エントリーフォームより!
http://massmass.jp/project/ethical_school2017/

 
 
 

 

 

 

 

安井さんが運営に携わっているレストラン「都電テーブル」。「まちにもう一つの食卓を」をコンセプトに、こだわり商店のある早稲田から出ている都電荒川線沿線の3店舗がオープンしている。
 

講義の前にmass×massスタッフで食べに行ってきました!おかずの種類が色々選べて、楽しいー!もちろん、味も美味しかったです!
 

子連れでも気兼ねなく入れるお店がほしかったという安井さん。自分たちが働き暮らす街のことを考え、まちづくりにも力を入れています。これからの展開が楽しみですね!
 
 
text  きむら・まき
photo  ほりごめ・ひろゆき