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イベントレポート|ソーシャルネクスト 2019 YOKOHAMA

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2019年10月20日、ソーシャルビジネスについて学び、交流し合う「ソーシャルネクスト2019 YOKOHAMA」が開催されました。会場にはおよそ50名の参加者が訪れ、登壇者と共にこれからのソーシャルビジネスについて考える時間となりました。
 
今回、「ソーシャルビジネスで持続可能な地域をつくる方法」をテーマに基調講演をしてくださったのは、一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(以下、こゆ財団)代表理事の齋藤潤一さん。こゆ財団は「1粒1,000円のライチ」などブランディングに成功した特産品で話題を呼び、その収益を地域内の教育に再投資する形で、宮崎県新富町を活性化してきました。
 
「ビジネスで地域を活性化させる」と聞くと、どのようなイメージを持つでしょうか。過疎化が進む地域では盛り上げていくのが難しい?国の補助金が必要?地元や地方のために何かしたいという思いを抱えながらも、課題の多い現状に何をすべきかわからない人もいる思います。
 
「補助金に頼らず、自分で稼ぐことが大事」「まずは2年間、やりたいことをやってみる」「地域活性のビジネスはチャンスだらけ」など数々の言葉に、参加者のみなさんの表情が変わり、思わずメモをとる姿が印象的でした。
 
そんな基調講演をレポートします。「地域のためにプロジェクトをはじめたい」「ソーシャルビジネスに関わりたい」「独立して新しい働き方を実践したい」という人の参考になる、たくさんのヒントが詰まっています。ぜひご覧ください!

 
 

過疎地域に世界中から人を集めることはできる


 
20歳から25歳までを、アメリカのシリコンバレーで過ごした齋藤さん。そのきっかけになったのは、突然亡くなった親戚の存在でした。それまで「いつか、アメリカに行きたい」と思っていた齋藤さんは「『いつか』と言っているだけでは、絶対にやってこない」と考え、アメリカへ。最先端のテクノロジーやビジネスの街、シリコンバレーで5年間を過ごします。
 
海外から見る日本は、いまだに自然豊かで美しいイメージ。25歳で帰国する前の齋藤さんが描いていた日本のイメージも同じだったと言います。しかし帰国後、深刻な人口減少、シャッター街や耕作放棄地の増加、断片的な地域活性など課題が多い状況を知り「なんとかしなければ」という気持ちが湧いてきました。
 
「このボロボロになっている日本を、シリコンバレーで学んだビジネスの力で変えたい。地域にビジネスの仕組みを入れて、持続可能な地域を作りたいと思いました。自分の中で『使命感』が湧いたんです」
 

 
 
そこで齋藤さんが見せてくれたのは、シリコンバレーで学んだある推移グラフ。今や知らない人はいない、大企業Appleの株価の推移です。
 
「現在100兆円と言われているAppleの株価ですが、私がシリコンバレーにいた2000年当時はほぼゼロでした。これってすごいことだと思いませんか。私は地域に関しても同じだと思っているんです。『限界集落』『過疎地域』『条件不利地域』などのネガティブワードで表現されている地域も、いつか世界から認められる可能性があると信じています」
 

実際、こゆ財団が活動する新富町も観光地として有名ではありませんでした。しかし現在はインターネット経由で情報がどこまでも届き、魅力が伝われば観光客が世界中から訪れる時代。新富町でも1泊5万円の宿に観光客が訪れるといいます。
 
「どんな地域でも、いつか世界中から観光客が来る可能性はある。そんな夢を描くことはできる。それがシリコンバレーで学んだことです」
 
 

「何をやるか」よりも「なぜやるか」


 
齋藤さんが地域の現状を知ったときに抱いた「使命感」という言葉をきっかけに、齋藤さんは講演中、何度も「なぜやるのか」と参加者に問いかけました。実際にこゆ財団でもミッションやビジョンを突き詰めることに力を入れているといいます。
 
「お金も時間もかけて『私たちはなぜ、地域活性をするのか』を何度も何度も問いただします。それくらい『なぜやるのか』は、ビジネスの軸になる重要なものです。」
 
ここで齋藤さんが紹介したのは、モチベーションコーチ、コンサルタント、著述家、講演家のサイモン・シネックがTEDカンファレンスで2009年におこなった講義。「How Great Leaders Inspire Action(優れたリーダーはどうやって行動を促すか)」はTED史上最も多くダウンロードされた動画です。
 
講義のなかでサイモン・シネックが語っている「ゴールデンサークル」とは、「何をやるか」よりも「なぜやるか」を考えることが重要であるというもの。前述のAppleを例にあげ、作る製品や性能ではなく、Appleがなぜコンピューターを作ろうとしたのかを伝えることで、人気を博していったと説明しています。
 
「こゆ財団も同じです。『地域商社で起業家育成をやっています』ではなく、『衰退していく日本を、ビジネスの仕組みで変えていきたい』と思いを伝えるのとでは、まったく印象が違いますよね」
 
何をやるか、よりも、なぜやるか。それを突き詰めていくことが、ソーシャルビジネスにおいて重要であると繰り返しました。
 
 

お金は稼がなければいけない


 
ソーシャルビジネスでは社会課題の解決だけでなく、それを「どうやってビジネスとして稼いでいくか」が鍵となります。こゆ財団は「お金をしっかりと稼いで、それを町に再投資する」ことを考えている事業であるだけに、1粒1000円のライチを開発し、ふるさと納税も5億円から20億円まで増やすなど「稼ぐこと」について妥協はしてきませんでした。
 
「ソーシャルビジネスをやっていて『稼がなくてもいい』なんて言う人は退場ですね(笑)これだけは言いたい。お金は絶対に稼がなければだめです」
 
齋藤さんがここまではっきりと断言するのは、補助金頼りになると自立したビジネスとして持続していくのが難しいからです。「自分たちで稼ぐこと」が持続可能なビジネスモデルへの欠かせない要素だとして、クラウドファンディングなどを使った事例を紹介しました。
 
「大規模な事業でたくさん稼げ、と言っているわけではないんです。小さくてもいいから、みなさんがやりたいこと、地域課題を解決することを行なうこと。それで、ちゃんとお金を稼いで持続可能になることが、ソーシャルビジネスを作る上で重要だと思います」
 

 
 
齋藤さんが参加者に伝えた稼ぐためのポイントは、収入源を複数持つこと。こゆ財団においても、特産品の開発だけでなく、ふるさと納税の委託金や他の事業からの収入も得ながら活動しています。
 
「稼いだお金を自分たちの肥やしにするのではなく、地域へ再投資するというのもポイントです。『なぜやるのか、誰のために稼ぐのか』という軸をブラさずに複数の事業を持つのがいいですね」
 
 

一歩踏み出せば地域は変えられる


 
「お金を稼ぐこと」と、もうひとつ、齋藤さんが参加者に向けて伝え続けたこと。それは「わくわくすること、自分の本当にやりたいことを人生の真ん中に置くべきである」というメッセージ。一見、精神論のようでいて、そこにはしっかりと「持続可能なビジネスをつくる」ことにつながる理由がありました。
 
「まず、自分自身がわくわくしていないと事業を続けていかれないんです。僕は自分のやりたいことを人生の真ん中に置いているから、眠れない夜も、借金で不安になる日も、乗り越えられました」
 
そうは言っても、すべてを投げ売ってやりたいことを生活の中心にするのは難しい、というのが多くの人が考えるところ。そんな人たちに齋藤さんが提案するのは、期間を決めて全力で取り組んでみることです。
 
「シリコンバレー時代の師匠に『自分のやりたいことを思いっきりやったら、ビジネスとしてうまくいくか、うまくいかなかったとしてもその道の専門家になっている。そうすれば、結果的に生涯年収は絶対に上がる』と言われたのが、そのとおりだと思います。僕のおすすめは2年間。横浜市を始め、多くの自治体では起業サポートなどがあるので、長い人生の2年間くらいはやりたいことにチャレンジしてもいいんじゃないでしょうか」
 
 
 

 

 
 
 
Photo : yuji tanno
text : mana wilson