次世代のソーシャルビジネスに必要な視点などを学び・考え・交流し合う機会として開催された、「ソーシャルネクスト2019 YOKOHAMA」。
基調講演では「一般財団法人こゆ地域づくり推進機構」(以下、「こゆ財団」)の齋藤潤一さんから、「ソーシャルビジネスで持続可能な地域をつくる方法」というテーマでお話をお伺いしました。
▶︎イベントレポート|ソーシャルネクスト 2019 YOKOHAMA
続いて市内事業者代表として2名のゲストを招き、パネルディスカッションが行われました。パネルディスカッションの趣旨は、「事業者同士に横のつながりをつくり、”クロス・バリュー”(多様なメンバーによる共感と議論)を生む」こと。ファシリテーションは、関内イノベーションイニシアティブ代表の治田さんが務めました。
「株式会社教育ネット」の大笹いづみさん、「株式会社パパカンパニー」の添田昌志さんをお招きし、「こゆ財団」の齋藤さんと合計3名で、活発な議論が行われました。
横浜市内の事業者をゲストに招いて
まずは「株式会社教育ネット」の大笹いづみさん、「株式会社パパカンパニー」の添田昌志さんより、それぞれの会社の紹介がありました。
株式会社教育ネットは、”教育を通して子どもたちの可能性と夢を広げる社会の仕組みをつくる”を企業理念に掲げ、自治体の教育情報化のコンサルティングや、情報モラル・プログラミングの出張授業、教職員研修、保護者講座などを実施しています。
大笹さん 「成功ケースに行政や他の会社を巻き込むことで、地域の仕組みをつくりたい。継続性がないところに、イノベーションは起きないと思います」
株式会社パパカンパニーは、横浜の親子向けのお出かけ情報サイト「あそびい横浜」や、横浜のパパ・ママが持つ個性的なスキルを活かした体験の場「よこはま こどもカレッジ」を運営しています。
添田さんは、保育園で出会ったパパ友達とパパカンパニーを立ち上げ、情報サイト「あそびい横浜」を始めました。
添田さん 「地域をしぼったメディアで情報発信していると、色々なスキルを持っている人と出会うんですね。一方で、同じ地域で場所を使ってほしいという人もいる。その両者をマッチングしたいと思って始まったのが”よこはまこどもカレッジ”です。」
横発信やプロモーションの「戦略」は重要ではない?
まずゲストには、「各事業の発信やプロモーションはどのように行っているのか」という問いが投げかけられました。
大笹さんと添田さんは、発信やプロモーションについては試行錯誤中だと話します。
大笹さんの場合は、起業して3,4年は主に神奈川県の行政や教育委員会がクライアントだったので、会社を知ってもらうために直接営業に行っていました。
大笹さん 「3年が経ったころからプロモーションを始めましたが、自分で戦略を練るのは難しくて。東京の商工会のサポートを受けながら、SNSや動画制作などさまざまな手段を試しています。」
添田さんの場合、運営している情報サイト「あそびい横浜」には延べ約500万人が訪れるようになっています。サイトを閲覧する親子にはよく知られるようになっている一方で、サイトに情報を載せる企業や団体に向けたBtoBの発信は試行錯誤中です。
添田さん 「BtoBの発信は結局、口コミによる紹介が多いです。サイトに出した広告で集客効果があると、他の会社にも教えてくださって広まっていく。これは、地域社会の単位で行うWebサービスの良いところかなと思います。」
一方で齋藤さんが代表理事を務める「こゆ財団」はメディア出演の機会も多いですが、情報発信についてどのような戦略を立てているのでしょうか。
ところが齋藤さんは、”発信・プロモーションの戦略”はそんなに重要ではないと話します。
齋藤さん 「”発信・プロモーション”ではなく”熱狂”、つまりファンのコミュニティをつくることが大事だと思っています。
今の時代、小手先のテクニックで発信をしても通じず、嘘をつくとすぐにバレてしまう。まずは事業をやっている僕らが本当にやりたいことをやるという信念を持つこと。そこに熱狂が加わると、拡散力が非常に高まるんです。」
「クロス・バリュー」を産むために大切なことは?
ゲスト3人の各事業では、学校や行政をはじめとする他のアクターとの連携も密に行っています。他アクターとの連携のなかで「クロス・バリュー」を産むために、それぞれ何を大切にしているのでしょうか。
大笹さんのIT教育事業では、学校・その管轄をする地方自治体・保護者や子どもたちのすべてに関わります。
大笹さん 「学校のニーズと行政のニーズって、多少ずれることもあるんですよね。私たちは、学校・行政・保護者と3者それぞれの立場の人と関わるなかで、”子どもを中心に置いたときに何が求められているのか?”を提案し、つないでいくことを大切にしています。」
添田さんは、パパ・ママが持つ個性的なスキルを活かした体験の場「よこはま こどもカレッジ」の運営を例に挙げ、地域のクロスバリューについてこのように話します。
添田さん 「”横浜で親子いっしょに笑顔になれる場所をつくりたい”と、もともと思っていました。僕らだけで実現するのはなかなか難しいけれど、地域にはすでにやっている人・やりたいと思っている人たちがたくさんいます。
彼らを巻き込むことで、まるで1+1=5にするように、できることを増やしたい。そして、関わるみんながwin-winになれる仕組みをつくりたいと思っています。」
地方自治体と密接に関わりながら事業を行う「こゆ財団」の齋藤さんは、行政との関わりのキーワードは「向き合う」ことだといいます。
物事を進めるスピード感の違いなどから、役場の担当者と意見が割れることもしばしば。そんなとき齋藤さんは、納得できるまでとことん議論をします。
齋藤さん:「最悪なのは、議論もせずに ”〜さんに言われたからだめです。”と終わりにしてしまうこと。
僕が新富町の役場の人と向き合いとことん議論できるのは、相手のことをリスペクトしているからです。互いへのリスペクトがなければ、正面からぶつかることはできない。
他のアクターとの掛け算では、プラスをかけると大きなインパクトがある一方で、0を掛けるととゼロに、マイナスをかけるとマイナスになってしまいます。エネルギーがいることですが、そのことを念頭に置いて向き合っていけると良いのではないでしょうか。」
「どこでやるか」より「なぜやるか」
続いて添田さんと大笹さんから、齋藤さんへ質問がありました。
添田さんからの質問は、「なぜ、新富町を選んで起業したのか」。
齋藤さん 「僕へ直接オファーがあったんですが、決め手はビジョン・ミッションが同じだったことですね。このままじゃ地域は存続しないから、しっかりお金を稼いで地域経済を回し、起業家を育てていかないといけないという思いが一緒だった。
それがなかったら”掛け算”がうまく回らないので、やっていなかったでしょう。正直、場所はそれほど関係ない。場所や地域より、”誰とやるか”・”なぜやるか”を重視したほうが良いと思います。」
続いて大笹さんから、「起業してから今までで一番の危機、やめようと思ったことは?」という質問がありました。
斎藤さん 「僕は事業の危機ではやめようと思わないけれど、ビジョン・ミッションが薄れたり、自分がその組織にマッチしなくなったときにやめることを考えます。
自分の特性と組織で求められること、その両方を知るのがとても大事だと思っていて。
例えば僕の場合は0→1をつくるのは得意だけど、3年から5年の周期はあまり得意ではない。組織の一人として客観視したとき、組織が勝つために自分がいるべきかいないべきかを考えることはありますね。」
「なぜやるのか」がマーケットサイズを決める
次に参加者からゲストの3人へ、「マーケットはどの程度を想定しており、実際はどうだったか?」という質問がありました。
大笹さん 「5年後に10億、と思って始めたけれど、行政に関わることもあり思ったよりも時間がかかりました。一方で始めてみると、事業へ関わってくださるところにはさまざまあると気づきました。始める先に壁をつくらず柔軟性を大事にすることで、マーケットは広がっていくのではないかと思います。」
添田さん 「私たちの事業のマーケットは小さくて、広告収入モデルではなかなか利益が出なかったです。その代わり、リアルな場づくりで少しずつ利益が出るようになりました。やはり、やってみないとわからない、柔軟性を大事にするということなのかなと。」
斎藤さん 「僕は、視座の高さがビジネスの規模に反映すると思っています。自分の目の前の誰かを救いたいのか、日本の問題を解決したいのか、世界の問題を解決したいのか。その視座によって市場の大きさも変わる。
これは僕の考えですが、人間はイメージしたものしかつくれないし、イメージしたものが現実社会に投影されていくと思っています。
なので、”なぜやるのか””自分のやりたいことの真ん中は何か”によって、マーケットサイズは変わっていくのではないでしょうか。」
自分自身を大切にすることで、地域はもっと元気になる
パネルディスカッションの締めくくりに、ゲストから一言ずつ、参加者へメッセージがありました。
添田さん 「チャレンジのつもりで会社を始めて、気がつけばここまできていました。やらなかったらわからなかったことだらけです。新しい自分を知る旅へみなさんもお出かけくださいと、伝えたいです(笑)」
大笹さん 「私は仕事を通して、毎日、楽しくチャレンジしています。チャレンジできて楽しい、人とつながって楽しいと、半分趣味のような感じです。何か今日の話が響いたのなら、一歩踏み出してみることをおすすめします。」
斎藤さん 「まずはみなさん自身が、ありのままの自分で生きられるのが一番だと思っています。
僕も短所や欠点がたくさんあるんですが、それをサポートしてくれる仲間がいるんですよね。人は長所と短所を補い合いながらやっていくんだと思います。
全員4番バッターだと、強いチームじゃないですよね。1番は必ず出塁して2番が送り、3番4番が決めて、5番が中堅になって6,7,8が犠牲になってでも次に繋ぐ、だからこそチームなんですよね。
そういうイメージで地域づくりをやっていったらいいなと思うんですよ。みなさん自身が他の何よりも自分を大事に生きていくようになれば、地域はもっと元気に楽しくなると思います。
またどこかでお会いできるのを楽しみにしています、ありがとうございました。」
専門分野を超えたゲストによるパネルディスカッションでしたが、事業者としての共感と議論で盛り上がり、まさに今回のテーマである「クロス・バリュー」を体現した時間となりました。
「まずはありのままの自分自身を大切に」「なぜやるのかを自分に問い続ける」という斎藤さんのメッセージに、心が動いた人もいるのではないでしょうか。起業について迷っている人は、ぜひこの機会に一歩行動を起こしてみてください。
Photo : yuji tanno
text : mai yatsumoto