2018年11月30日に開催された「ソーシャルネクスト 2018 YOKOHAMA」のイベントレポートをお届けします。
今回のフォーラムの後半は、4つのラウンドテーブルに分かれ、各テーマについて登壇者の方々によるトークセッションを行い、さらに議論を深めていくことでより本質に迫りました。
ラウンドテーブル1では、ソーシャルビジネスの社会的価値と展望をテーマにスピーカーに日本環境設計株式会社代表取締役会長の岩元美智彦さんと産業能率大学教授中島智人さんにご登壇いただきました。
ファシリテーターは関内イノベーションイニシアティブ株式会社の高瀬桃子が務めました。
ソーシャルビジネスという言葉は徐々に認知されはじめていますが、人によってその解釈はさまざまです。改めて「ソーシャルビジネスって何?」「海外ではどうなの?」「日本では?」「これからどうなるの?」といったことを、ソーシャルビジネスの実践者と研究者のおふたりとともに探りました。
社会課題の解決は自分だけでなく、みんなを巻き込んだ方がうまくいく
ソーシャルビジネスの実践者と研究者、それぞれ違う立場からソーシャルビジネスを語っていただくラウンドテーブル1ですが、まずはそれぞれが取り組んでいることの紹介からスタート。
日本環境設計は、リサイクルに取り組むベンチャー企業です。岩元さんが本気で経済と環境を両立させたいと思い、12年前に120万円で起業。いまでは24億円規模になっています。1着の服から1着分の原材料がつくれる技術で、昨年から工場を稼働しています。また、携帯電話を回収して、そこから金・銀・銅を取り出して2020年東京オリンピックのメダルをつくるという取り組みも。まさに、いままで捨てていたものがテクノロジーで資源に生まれ変わるのです!
そして今年、川崎にペットボトルからペレットをつくる世界最大の工場を建て、石油からつくるペレットと変わらない価格を実現させようとしているところだそうです。
とくに印象的だったのは、「リサイクルを楽しく」という考え方でした。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の「デロリアン」をゴミ(バイオ燃料)で動かそうというイベントに2ヶ月間で10万人近くの人が参加したり、今年行ったマクドナルドのハッピーセットのおもちゃリサイクルにも125万人の子供たちが参加したり。また参加型のリサイクル資源を使ったオリンピックにしようという構想は世界中から評価されています。
ワクワクしながら子どもも大人もリサイクルを体験できることが大事、「地上資源」の経済圏をつくって環境と経済と平和を実現したいという岩元さん。会場の皆さんへも、社会課題は自分だけでなく、みんなを巻き込んで知恵や意見を取り込んだ方がきっと解決できるというアドバイスをいただきました。
つぎに、中島さんからは自己紹介と、イギリスや海外のソーシャルビジネス事情にもお話しいただきました。
一口にソーシャル、社会課題といっても国によってイメージが異なります。また、ひとつの社会課題を解決する手段はたくさんあり、どのような形態で行うかという選択肢もたくさんあります。ただ、OECD(経済協力開発機構)によるソーシャルビジネスの定義は、「いままでのやり方では私たちが今直面している社会課題は解決できない」という考え方に基づいています。それは、いままでにない新しい課題が出てきていることと、既存のやり方で取り残されてきた課題が顕在化していることを表します。
欧米では、社会的に排除されている人たちは、金銭的余裕がなかったり発言力が弱かったりするため、ソーシャルビジネスは市民の「参加」が鍵と考えられています。また、欧米ではソーシャルビジネスは営利や非営利を超えた存在。社会性をどこに据えるのか、社会的なものをどう捉えるのかが議論されているそうです。そして、たとえその事業がはじめはアントレプレナー(起業家)によってスタートしたとしていても、あるどこかの時点で「社会化」することが必要。いろんな人たちの支持を得ることで、初めて事業の持続可能性が生まれてくるといったお話をしていただきました。
広げるための1つに楽しさが大事だと思っています。
後半のトークセッションでは、モデレーターの高瀬からお二人へ質問に沿って進行していきます。
高瀬 岩元さん自身、事業をソーシャルビジネスとして始めたのでしょうか?
岩元さん 実はそうではなかった。リサイクルの技術開発をして衣類を集める仕組みをつくったら、意外と衣類が回収できました。消費者はリサイクルしたいんだ、ということがわかった。その次に、楽しいことをやろうとワークショップを実施。さらに次のステップとして、世界がびっくりするようなことをしたい!と思ってデロリアンを動かそうと思った!ちょっと飛びすぎですかね。
デロリアンを動かした当日はたくさんのマスコミが来ていて、それを見てようやく“ブランドとはこういうものなのか”ということを社員が理解したんです。真面目にやることは正しい、けれども広がらなかったら意味がない。広げるための1つに楽しさが大事だと思っています。そういったことがソーシャルビジネスのヒントになると思います。
「社内を説得するのも大変で、3年くらいかかった(笑)社員みんなで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をPART1から3まで見て、なんとかデロリアンを動かすことに賛同してもらった。」と笑顔で話す岩元さん。
中島さん “正しさ”とか“儲けてはいけない”というのは日本的特徴だと思います。明治の民法からはじまり、その100年後にNPO法が成立したわけですが、かつては国や自治体が許可したものしか公益として事業を行えなかった。
今では民間は少数に対してサービスを提供していいはずなのに、未だ世間一般の“正しい”に囚われている。ただ多様化している世の中で、“正しさ”も選べるようになってきている。法人格問わず、自分が正しいと思っていることを正しいと思っている人たちに届けられる。岩元さんの言う“消費者はリサイクルしたがっている”というのが象徴的だと思います。
岩元さん 消費者がリサイクルしたがっているというのは、ちゃんと売上にも反映されているんです。回収ボックスを置いた店舗と置かなかった店舗では売上の差が出ました。消費者が衣類を回収した店舗のファンになって、またその店で購入するということがわかったんです。見えない消費者の気持ちを経営の数字に落としたことはよかったと思います。
高瀬 これまでの環境系の活動は我慢を強いることや、消費を悪と見なすところがあったように思います。でもやはり我慢は続かないし、欲しいものはほしいんですよね。岩元さんの事業は消費者の気持ちに沿っていると思います。
岩元さん マクドナルドのハッピーセットの事例のように、子どもたちは素直です。大人は知識もあるし、いろいろ分かっていても動かない。世の中は社会課題に対して興味のない人がほとんどで、この層をどう動かしていくか、気づきを与えるかが重要だと思います。そのときに楽しいことを連続的にやっていく。要らない携帯電話をお店に持っていくと、それがメダルになる。それだけでも動くきっかけになります。
中島さん (日本環境設計のように大きなスケールで事業をできる企業ばかりではないことを踏まえ)企業として儲かる部分と儲からない部分と分けて資源を分配できるのが理想ですが、日本のソーシャルビジネスではなかなか儲かる部分を見いだせないのが現状です。最初から社会的課題を見つめてしまうと、そもそもそれは儲からないものなので苦労している。個人的には最も取り組みたい儲からない部分のために、儲かる部分を視野に入れて考えるのもよいのではないかと思います。
最後に、ご登壇いただいたお二人にこれからの事業展開やソーシャルビジネスの将来についてお伺いしました。
岩元さん 起業をした12年前とは環境が変わり、理解されるようになりました。そしてお金もついてくるようになった。やはり投資家や大企業と対等に話し合うための勉強をして、自分を成長させることが必要です。そして、議論ばかりしてないで行動!動きながらひとつひとつ課題をつぶしていきたい。
中島さん ソーシャルビジネスの認知度は上がっているので、誰かの夢や課題解決の手段になることが増えるはず。お金など資源を分かち合うような、循環型の資本主義のあり方が認められると、まったく新しい社会が生まれると思います。
ソーシャルビジネスの実践者と研究者、それぞれ違う立場からソーシャルビジネスを語っていただきました。一見違う視点のようで、共通する部分も大いにあったかと思います。全然時間が足りないというのが正直なところでしたが、とても充実した70分間となりました。
各ラウンドテーブルのレポートも随時公開していきますので、お楽しみに!!
▼基調講演&市内事例のレポートはこちら!
▼ラウンドテーブル①のレポートはこちら!
▼ラウンドテーブル②のレポートはこちら!
▼ラウンドテーブル③のレポートはこちら!
▼ラウンドテーブル④のレポートはこちら!
Photo : yuji tanno
text : momoko takase
edit : hiroyuki horigome