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イベントレポート|福祉・介護分野で事業の継続させるために必要なこと。筒井啓介さん、足立聖子さんが「現場」を語る。

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ソーシャルネクスト、ラウンドテーブル2のテーマは介護と福祉の現場から学ぶ事業と協働のデザイン。基調講演のフェリシモ矢崎さんと横浜のソーシャルビジネス事業者2社のプレゼンの後、メイン会場から5分ほど離れたワークショップスタジオに10数名の方々が集まりました。このテーブルでは、今後さらに関心が高まってくる介護と福祉分野について、まさに実践を行なっている法人2社の経営者のお二人をお招きし、リアルな福祉と介護の経営の現場について迫ります。
 
進行は日本政策金融公庫国民生活事業部融資企画部から、ソーシャルビジネス支援グループのグループリーダーの和田裕介さん。ゲストにNPO法人コミュニティワークスの理事長の筒井啓介さん、そして社会福祉法人伸こう福祉会理事長の足立聖子さんのお二人にお越しいただきました。

 
 

仕事に当てはめるのではなく、それぞれの個性に合わせた仕事をつくる

 
冒頭に和田さんから、テーブルの趣旨、そして各ゲストのお二人のご紹介があり、後半は来場者の皆さんからの質問も受け付け、双方向の場にしていきたい事をアナウンス。まずはゲストのお二人から、それぞれの事業のご紹介、どんな活動をされているのか、そして起業のきっかけなどにも触れながらお話をいただきました。
 

筒井啓介さん
1980年神奈川県生まれ。大学在学中から約10年間にわたり、木更津市と協働で市民起業家やNPOの支援に取り組む。
そのことがきっかけとなり、2006年に「特定非営利活動法人コミュニティワークス」を設立し、「地域作業所hana」を運営。 2010
年には就労継続支援B型に移行し、現在は1日約20名の障がい者が通所し、不要になった英字新聞で作るエコバッグ作りや製菓、
縫製、モノ作りなどに取り組む。その後2015年には、生活介護と就労継続支援B型の多機能型事業所「hanahaco」を開設し、
障がい者が働く場としてのカフェ+ショップを運営している。
◎地域作業所hana

 
筒井さんは、大学まで横浜で過ごし、当初まちづくりの活動のために千葉の木更津へ移り住んだとのこと。そこでのご縁をきっかけにNPO法人コミュニティワークスを立ち上げることに。現在、障害者支援事業を行なう中で、大きく分けて3つの事業を手がけている筒井さん。1つ目が福祉作業所と呼ばれる施設で、主に企業様からさまざまな軽作業を発注いただき、シールを貼ったり、箱を組み立てたりと言った内職作業。2つ目がカフェと雑貨の販売。そして、3つ目の事業としてお弁当事業をスタートさせようと準備を進めているところとのこと(現在はお弁当事業もスタートしています。)
 
 
「障害者支援の道に入ったきっかけは、障害のある方々が一般の企業で働くのが難しいために継続型就労支援作業所と呼ばれる場所(B型作業所)で得られる月の賃金が1万5千円と聞いたことから。それでは自立した暮らしは出来ないし、どうにかして、彼らの賃金を上げられたらと考えたんです。」
 
筒井さんたちコミュニティワークスでは、仕事に人を当てはめるのではなく、それぞれの個性に合わせて仕事を作っていく方針。そういった中で、1つ目の内職仕事では賃金アップを達成することは難しいと判断。どうしたら少しでも収益性を高めることができるのかを考えた結果、英字新聞を活用して、バッグにするプロダクトの生産をスタート。その後、雑貨店などから注文が来るようになり、少しずつ収益化に成功し始めたそうです。
 
「また、カフェ&雑貨店はスイーツの商品化をおこなっています。こちらもどうしたら付加価値の高いスイーツを生産、販売できるかを考えました。トップパティシエにスイーツを監修していただき、千葉では有名なマザー牧場の牛乳を使い、実際にマザー牧場の売店で販売を行うようにしました。また、飲食店のシェフは一般のお店でも活躍されていた方を採用。お客様には障害のあるスタッフが働いているということは伝えずに、美味しさで選んでもらえる店づくりを展開しています。」
 
筒井さんの話を受けて和田さんからは、現在、日本政策金融公庫としても、NPOや一般社団法人への融資数が増えている点について。またその際にできるだけ複数の金融機関と一緒に借り入れをすることをすすめていること。介護や福祉分野にとって、金融機関との連携が必要になってくる分野であり、日本政策金融公庫としてもさまざまな相談も受け付けていることをシェアいただきました。
 
 

社会福祉法人にとって、株主は地域の人たち

 
続いて社会福祉法人伸こう福祉会理事長の足立さんにバトンタッチ。伸こう福祉会は社会福祉法人であり、足立さんの母親が設立されたもの。横浜市栄区でスタートさせ、介護事業・保育事業・障害者支援事業の3つを手掛けられています。現在スタッフは1100名を超え、売り上げ規模も57億円となっているそうです。
 

足立聖子さん
1969年生まれ。製薬会社に就職後、2000年に社会福祉法人伸こう福祉会に入職。特別養護老人ホーム施設長、地域ケアプラザ
所長等を経て、2010年法人理事長に就任。保育事業、高齢者介護事業、障害者支援事業、地域コミュニティ事業等を推進。2014年
に「シュワブ財団」による「社会起業家2014」に同法人創業者(現・執行役員)片山ます江氏と共に選出された。同年には一般財団法人
船井財団が開催する「グレートカンパニーアワード2014」において、社会福祉法人として初の「グレートカンパニー大賞」に選出された。
◎社会福祉法人伸こう福祉会

 
「社会福祉法人は福祉事業を行うための法人格。全法人の7割が公金的な資金となるため、株式会社でいうと私たちの株主は国民・地域で暮らす方々であると考えています。そのため、私たちは法人のパンフレットというものは持たず、アニュアルレポートというものを作成しています。事業の細かいデータを掲載して、少しでも皆さんに事業内容をオープンにする必要があると考えています。」
 
 
税金を使って行う事業が多いからこそ、目の前の介護や保育の事業をしっかりと行いながら、社会に役立つことや、社会が変化する大きなきっかけも生み出すことが社会福祉法人には必要なのではないか、と足立さん。基調講演でお話されていた株式会社フェリシモの矢崎さんが「フェリシモでは合理性と非合理性について話している」ことに対して言及され「伸こう福祉会の合言葉は、不完全性を容認する社会を目指そうという言葉をみんなで使っています」とのこと。
 
また、大きな特徴として、職員の採用に力を入れており、年齢や国籍、ホームレスだったり病いを抱えている方も積極的に雇用する事を行なっているそうです。高校をドロップアプトしてしまった15歳のスタッフや、数年前から定年を80歳に変更、現在80歳で働くスタッフもいる多様性のある環境になっています。
 
 
「日本の社会は、高齢化社会と人口減少が進んでいますよね。そして介護業界では現時点でも人手不足と言われています。こうした中で、「ビンテージ・ソサエティ」と呼ばれる、高齢者が多世代と交わりながら、力になっていく社会というものを作り上げていく必要を感じています。」
 
 
伸こう福祉会では、車椅子でも認知症でも社会で役割を持ち、仕事をしながら暮らしていける環境づくりを目指しているとのこと。そういった試みを自社のみで行うのではなく、さまざまな企業と連携しながら進めており、今後さらにその動きを加速させていきたいとお話いただきました。
 
 

あたらしい事業を展開するタイミング、コツ。その際の資金調達について

 

 
後半は和田さんからお二人に、現在の法人格を選ばれた理由と、そのメリット・デメリットについて、これから福祉分野で起業を考えている人たち向けとしてご質問。そのあとで、あたらしく手がける事業を決断する際、その際のきっかけ・判断のコツなど、もう少し具体的に聞いてみたいということで、お話を伺いました。
 
まずは筒井さんがご自身の経験をお話してくれました。

「我々はすごく計画を立てて、飲食事業やお弁当事業を始めているわけではないんです。たまたま現場や地域がそれを求めていた、と言いますか。我々の作業所では精神障害の軽い方と知的障害の重い人が一緒に働くという環境が当初ありました。そうすると、生産性を上げて付加価値の高いものを生み出そうとしているのに、ミスマッチが起こってうまく機能しなかったんです。スタッフもその対応に追われてしまう状態で。そのために、比較的精神障害の軽い人たち向けのしごと作りが必要だと判断、カフェ&雑貨を立ち上げスイーツの開発に至りました。」
 
 
筒井さんのお話を受けて、足立さんからは、同意したうえで、さらに時代背景を踏まえてご自身がどのように新規事業を展開したのかお話がありました。

「伸こう福祉会も全く同じですね。当時介護問題があり、老人ホームに入りたくても入れない人たちが社会に多いという状態でした。そのため、ちょうど企業が手放し始めた独身寮がある事を知り、リノベーションを行って老人ホームにする事業を始めました。それが1986年頃。その後、介護保険がスタートして特別養護老人ホームを始めて。私の代になってから、あたらしい事業をはじめたのは障害者支援事業ですね。
 
そのきっかけは、私が地域包括支援センターで働いていた時に、相談で来るゴミ屋敷の清掃事案でした。そこでのご家庭のニーズを知った時に、高齢の親と障害を抱えたお子さんのいる家庭の支援の必要性を感じたんです。そこで、障害者施設だけれども、老人ホームとしても機能している、両者が一緒に暮らせる施設を作りたいと思い、スタートさせました。」

 

 
また、あたらしい事業を手掛ける際、資金調達については、筒井さんが最初にスタートさせるタイミングでは家族や友人から、お金を借りたというエピソードも。仮に借りるとしても、自己資金はある程度必要なのではないか、また金融機関との繋がりも大事なので、地域の信用金庫や日本政策金融公庫などの政府系の金融機関など、相談することが大事ではないかとのこと。
 
足立さんに関しては、前理事長から事業資金は必ず金融機関から借りて行うべきという教えがあったこと。なぜなら、社会福祉法人として手掛ける事業に対して、銀行が一番のシビアな先生であることから、銀行がGOを出さない事業はむしろ手がけてはいけないという考えだったそう。
 
そして和田さんとのやりとりの中で、金融機関から必要のない借り入れをする必要はないこと。福祉分野の事業に対しては、不動産を持つ方が地域で有効活用してくれるのであればと相場より安く貸してくれることもあるそう。そういった場所を借りて、事業を行うことも視野に入れておくと良いのではと、足立さんからのアドバイスがありました。
 
その後は来場者からの質問タイムに入り、ラウンドテーブルは終了となりました。
福祉や介護の分野でまさに実践者として活躍されている2法人のお二人のエピソードは、参加する方々にとっても本当に価値ある話だったかと思います。
 
これからの横浜、全国で活躍する福祉・介護事業者同士の横の連携もさらに求められてくることを感じる時間でした。
ゲストの筒井さん、足立さん、そして和田さん、素晴らしい時間をありがとうございました!
 
 
 
各ラウンドテーブルのレポートも随時公開していきますので、お楽しみに!!
▼基調講演&市内事例のレポートはこちら!
▼ラウンドテーブル①のレポートはこちら!
▼ラウンドテーブル②のレポートはこちら!
▼ラウンドテーブル③のレポートはこちら!
▼ラウンドテーブル④のレポートはこちら!

 
 
Photo : arata haga
text : masanobu morikawa
edit : hiroyuki horigome

 
 

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